豚やな

もう、30年以上前のことだが、学生時代に天狗でバイトしていたことがある。
今は和風のファミレスみたいになっているが、当時は純然たる居酒屋であった。
当時の人気メニューに「ゲソの南蛮上げ」と「豚柳川鍋」があった。
ホールのバイトをしていた私は、それらを客に運びながら「食いテェ!」と切実に思ったものだ(ついでに、酒飲みテェとも思った)
「豚柳川鍋」というのは、土鍋に豚バラの薄切り肉と牛蒡の笹掻きを煮たうえに、卵でとじた物であった。
土鍋で一人前ずつ作るから、運ぶときはまだグツグツいっていて、何とも美味そうな香り立ちのぼる。
客は山椒を掛けて食べる訳だが、その山椒の香りがまた堪らない。
おしゃべりに夢中で、なかなか食べ終わらない客がいると「熱いうちに速く食え!(タコ!)」などと思ったモノだが、流石に余計なお世話なんで言わなかった。
今は家でたまに作って食べている。
最初は土鍋で作っていたが、割れてしまった時に有り合わせの鉄鍋で作ったら、これが意外と上手く出来たんで、以来、その鍋で作っている。
作り方も簡単で、蕎麦つゆの元を適当に薄めて、牛蒡の笹掻きを敷き詰め、その上に豚バラの薄切り肉を開きながらのせて、軽く煮込んだ後、卵でとじるだけ。
私は半熟が駄目なんで固くとじるのが好みだけれども、家人はふわふわの方を好むので仕方なく半熟程度であげている。
コツというほどの物は無いが、あえて言えば、卵はあまりかき混ぜずに、白身と黄身が軽く混ざるくらいで十分だろう。
子供の頃は牛蒡なんてモンは嫌いだったけど、今では大好きになっている。
先の戦争中に、米兵の捕虜に牛蒡をだしたところ、「木の根っこを食わせて捕虜を虐待した」とかいうことで、戦後、裁判にかけられたそうだが、何ともはやである。
雨が降ると散歩に行けないんで困る。