恐怖

かねてからの念願叶い、ようやく鋸山に登ることができた。
ロープウェイを使っても、名所を観光するには相当な山道を歩かねばならない。
ただ、苦労しただけのことはあって、大いに目の保養になった。
特に石彫りの大仏は写真で見るのとは大違いで、その圧倒的な迫力にしばし感動していた。
大分疲れたので早めに宿に入り、温泉を楽しんだ後、部屋でビールをやりながら、家内と今日撮った写真を確かめていた。
家内も私も楽しそうな顔をして写っており、何枚かは見ず知らずの人が好意で撮ってくれた、二人仲良く並んで写っている写真もある。
ささやかではあるが、こういうのが幸せなのだなとつくづく思う。
ロープウェイの山頂駅付近に小さな廃屋があった。
家内は嫌がったが、私は好奇心を抑えきれずに探検してみた。
なんら収穫の無いまま、廃屋を出ようとしたとき、家内が記念に写真を撮るからそこで止まれといった。
言われるままにポーズを取って記念に一枚。
廃屋を出た後、カメラを受け取り、家内が取っていた場所から廃屋の写真を撮っておいた。
宿で写真を見ると、廃屋は写っているのだが、私が廃屋内で写された写真がない。
どういうわけか、その一枚だけ抜けているのだ。
私は本当に廃屋から出れたのだろうか?

これがその時私が撮った写真だ。
家内はまったく同じ位置から、私が室内にいた写真を撮ったはずなのだが、その写真だけがどこにもない。
正直、怖いんですけど。